皮脂の作られ方「皮脂の合成と分泌」の仕組み

皮脂が分泌される画像 どんな人においても皮膚に存在する皮脂。その皮脂は肌において水分蒸発を防ぐ働きや、肌を滑らかに保護する働きがあります。

その皮脂はどのように作られ、そしてどういった性質によって肌に影響をもたらすのでしょうか。

皮脂の作られ方について

毛の構造のイラスト 皮脂は毛穴の内部に存在する皮脂腺(脂腺ともいう)という器官で作られます。皮脂腺に存在する皮脂腺細胞が皮脂を合成して溜め込み、最終的には自らが崩壊することで皮脂が放出されます。

皮脂腺細胞が「皮脂の合成」→「貯蔵」→「破裂」を繰り返すことで皮脂が次々と毛穴から表面へと分泌され、皮脂膜を作って肌を弱酸性に保ったり、水分の蒸発を防ぐ働きなどを担っています。

皮脂腺は男性ホルモンの影響によって活発になる

ポイント 皮脂は主に思春期(第二次性徴期)に増加することで知られています。それには男性ホルモンの分泌の増加が関与しています。思春期になると男女ともに男性ホルモンの分泌が活発になります。

男性ホルモンは皮脂腺を発達させる作用があることや、皮脂分泌を促す作用などがあり、そのために男性ホルモンが増加する思春期からはニキビができやすくなります。

また、女性の場合は思春期から女性ホルモンも活発に分泌されるようになりますが、女性ホルモンの一つである黄体ホルモン(プロゲステロン)は男性ホルモンと似た働きをする性質があり、それによって皮脂分泌が増加します。

生理前の黄体期に肌が不安定になってニキビやブツブツができやすくなるのは黄体ホルモン(プロゲステロン)の影響が大きいといわれています。

皮脂中の成分

皮脂腺から分泌された皮脂は以下の成分によって構成されます。

  • トリグリセリド(中性脂肪)・・・約60%
  • ワックスエステル・・・約25%
  • スクワレン・・・約12%
  • コレステロールエステル・・・1%以下
  • その他・・・5%以下

上記の成分は皮脂そのものの成分です。これに表皮に存在する脂質や、皮膚常在菌が皮脂を分解したりすることで以下のように成分構造が変化していきます。

  • トリグリセリド(中性脂肪)・・・約20~30%
  • ジグリセリド・モノグリセリド・・・約10%
  • 遊離脂肪酸・・・約20~30%
  • ワックスエステル・・・約20%
  • スクワレン・・・約10%
  • コレステロール・・・約1.5%
  • コレステロールエステル・・・約2.5%
  • その他・・・約4%

皮脂の成分解説

トリグリセリド(約20~30%)
グリセリンに3つの脂肪酸がエステル結合したもの。中性脂肪の一つ。皮脂そのものには最も多く含まれますが、皮膚に生息する常在菌などが分解することでトリグリセリドの割合が減ります。

ジグリセリド・モノグリセリド(約10%)
グリセリンと2つの脂肪酸が結合したのがジグリセリド。グリセリンと1つの脂肪酸が結合したものがモノグリセリド。トリグリセリドが分解されて部分的に脂肪酸を失った中性脂質がジグリセリドやモノグリセリドです。

遊離脂肪酸(約20~30%)
トリグリセリドが皮膚常在菌が分泌する細菌性リパーゼという脂肪分解酵素によって分解され、グリセリンとの結合がなくなった脂肪酸を遊離脂肪酸といいます。

ワックスエステル(約20%)
脂肪酸と高級(=炭素の量が多いこと)アルコールの化合物です。保湿作用と柔軟性をもたらします。ホホバオイルにも多く含まれる成分です。

スクワレン(約10%)
不飽和脂肪酸の一つ。保湿作用や肌を滑らかにする働きがありますが、一方で非常に酸化されやすい欠点があります。酸化が進行すると刺激性が増大します。

コレステロール(約1.5%)
主に生体膜を構成する物質。セラミドなどとともに細胞間脂質を構成する成分です。

コレステロールエステル(約2.5%)
コレステロールと脂肪酸のエステル。セラミドなどと共に細胞間脂質を構成する成分です。

その他(約4%)
主に、ナトリウム、カルシウム、カリウムなどのミネラルや、アミノ酸類、乳酸、ピロリドンカルボン酸などの有機物です。

上記の成分の割合は洗顔後からどのくらい時間が経過して計測するかどうかによっても大きく違いがあります。

遊離脂肪酸はニキビ毛穴の開きなどの原因?

皮脂中には遊離脂肪酸というグリセリンと結合していない脂肪酸が含まれています。

皮脂中の遊離脂肪酸は、皮膚に存在するアクネ菌(ニキビの原因菌)やマラセチア属真菌(カビの一種)などの常在菌が細菌性リパーゼという脂肪分解酵素を産生し、皮脂中の中性脂肪を「遊離脂肪酸」と「グリセリン」に分解して産生されます。

その遊離脂肪酸は、皮膚を健康的な弱酸性に保ち、皮膚に存在する常在菌のバランスをコントロールする働きがありますが、一方で皮膚の炎症や角質異常を引き起こす作用があるといわれ、増えすぎると肌トラブルをまねく要因になるといわれています。

皮脂中の脂肪酸の種類

皮脂中の脂肪酸には、主にパルミチン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、リノール酸などの様々な遊離脂肪酸が含まれています。その中でも特に多いのはパルミチン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸などです。

脂肪酸は、常温では固体で酸化されにくい「飽和脂肪酸」と、常温では液体で酸化されやすい「不飽和脂肪酸」の2種類に分けられますが、皮脂中の飽和脂肪酸は、パルミチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸などがあり、一方、不飽和脂肪酸は、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸などが代表的です。

にきびは不飽和脂肪酸が原因?

毛穴の開きと不飽和脂肪酸 皮脂中に含まれる、パルミトレイン酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸は、皮膚に刺激を与えて炎症を起こし、角化異常(角質を過剰に作り出して硬く厚くなる現象)をまねく要因になることがわかっています。

角化異常によって毛穴がつまりやすくなり、吹き出物を引き起こす可能性があるといわれています。

毛穴の開きやキメの乱れは不飽和脂肪酸が原因?

毛穴が開く仕組み 不飽和脂肪酸の影響によって長期的には毛穴がすり鉢状に変形し、毛穴が開いたような状態になってしまうこともあります。従来までは、なぜ毛穴がすり鉢状に変形してしまうのか明確にわかっていませんでしたが、不飽和脂肪酸が影響していることが明らかになってきています。

皮膚常在菌のバランスが乱れると遊離脂肪酸が増加する

遊離脂肪酸は、皮膚常在菌(アクネ菌や真菌など)が皮脂中のトリグリセリド(中性脂肪)を分解することで産生されます。

通常は、皮膚常在菌はある程度はコントロールされていますが、皮脂量が増加したり、免疫が乱れたりすると常在菌がしだいに増殖するようになり、それによって遊離脂肪酸を多く作り出してしまうことがあります。

脂漏性皮膚炎は遊離脂肪酸が原因?

遊離脂肪酸は脂漏性皮膚炎(脂漏性湿疹)という赤み、かゆみ、フケなどをともなった皮膚病の原因になることがあります。

脂漏性湿疹は、皮膚に常在菌として存在するマラセチア属真菌(カビの一種)などが何らかの要因によって増加し、それが皮脂中のトリグリセリド(中性脂肪)を分解して遊離脂肪酸を作り出すことによるものと考えられています。

皮脂中の遊離脂肪酸の量は部位によって違う?

皮脂中の遊離脂肪酸の量は部位によって違いがあり、特に額や鼻などのTゾーンに多いことがわかっています。皮脂分泌が多い部分であるほど遊離脂肪酸が多く、赤み、炎症などの肌トラブルを起こしやすいようです。

スクワレンも肌トラブルの原因になる?

ニキビの疑問 スクワレンは肝臓や皮膚で一日あたり800mg程度生合成される油脂で、皮脂内にも含まれています。皮脂中に含まれるスクワレンは肌をなめらかにする働きがありますが、非常に酸化されやすい性質があります。

スクワレンが酸化すると連鎖的に皮脂の酸化を促し、皮脂を過酸化脂質に変化させます。

皮脂の酸化は毛穴つまりをまねいたり、肌をベタベタにしたり、皮膚に刺激を与えたりします。油脂は時間の経過とともに酸化されますが、特に紫外線の影響によって酸化が進行することもあります。また、ストレスによっても皮脂中のスクワレンが酸化しやすくなることがわかっています。

スクワレンを酸化しにくいように安定化させた成分が「スクワラン」で、スクワランはエモリエント成分として美容液、リップクリームなどの化粧品に多用されます。