女性のにきびが治りにくい場合、多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん:PCOS)という女性特有の症状が潜んでいる可能性があります。
その症状をもつ女性は、皮脂が増加して肌が脂っぽくなることがあり、その結果ニキビができやすくなるのです。
今回は、多嚢胞性卵巣症候群の原因と治療法、それによるニキビ改善方法を解説していきます。
多嚢胞性卵巣症候群とは?
多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)とは、女性における排卵という現象が阻害されて、卵巣内に多数の卵胞が溜まり、月経異常や不妊症などの現象が起こる症状です。
英語で「polycystic ovary syndrome」といわれ、略称では頭文字をとって「PCOS」と呼ばれます。
通常は、排卵に向かって卵巣の中にある卵胞が成熟し、約20mmほどの大きさになると排卵するのですが、多嚢胞性卵巣症候群の人は、卵巣の表面が肥厚して排卵が行われず、溜まった卵胞によって卵巣が多嚢胞化している状態になります。
排卵が起こりにくくなるため、生理不順や無月経などの月経異常が現れるようになります。
そして、多嚢胞性卵巣症候群の女性はホルモン異常が現れ、男性ホルモンが高くなることがあります。それによってニキビ肌荒れが増したり、体毛が濃くなったりすることがあります。顕著に男性化現象が起こるケースもあります。
診断基準
日本産科婦人科学会による多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断基準は、月経異常、ホルモン異常、超音波検査などによる異常が確認できればPCOSが疑われます。
月経異常
多嚢胞性卵巣症候群であるかどうかの判断は、月経異常があるかどうかが最も重要になります。生理不順や無月経、不妊症などの場合はその症状が疑われます。排卵障害があるので少量の出血が続いたりします。
多嚢胞性卵巣症候群と診断される女性は月経不順や不妊症の悩みを目的に受診することが多く、詳しく検査をすると多嚢胞性卵巣症候群だったというケースが多いです。
ホルモン異常
黄体形成ホルモン(LH)が高くて、卵胞刺激ホルモン(FSH)が正常範囲であれば多嚢胞性卵巣症候群である診断材料になります。
また、多嚢胞性卵巣症候群の女性は、通常よりも男性ホルモンが高くなることがあり、それによってニキビが増えたり、体毛が濃くなったりすることがあります。ヒゲが生えてくることもあります。
欧米人の場合は男性ホルモンが高くなって男性化のような現象が起こりやすいのですが、日本人の場合は必ずしも男性ホルモン値が上がらないことも多いとされます。
超音波検査により卵巣内の多数の卵胞がみられる
多嚢胞性卵巣症候群では、超音波検査(エコー検査)により卵巣内に多数の卵胞が溜まっていることが確認できます。
卵胞がネックレスのようにつながっている「ネックレスサイン」と呼ばれる状態があれば、その症状が疑われます。
ただし、卵巣内に多くの卵胞が確認できる女性でも正常な排卵や生理が行われていれば、多嚢胞性卵巣症候群とは考えられていません。
多嚢胞性卵巣症候群の原因とは?
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の原因は、詳しく明らかになっていませんが、インスリンの上昇や高プロラクチン血症などで症状が現れやすくなります。
インスリン抵抗性が高い
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性は、インスリンというホルモンの抵抗性が高いケースがあります。
インスリンは血糖を下げて糖分を細胞に取り込む働きがあるホルモンですが、そのインスリン抵抗性が高くてインスリンの効果が現れにくいことから、血中インスリン濃度が上昇してしまうのです。
血中インスリン濃度が高い状態はホルモン分泌の異常を起こして排卵の妨げとなり、多嚢胞性卵巣症候群の原因になることがあります。また、インスリンが男性ホルモンの産生を促すことでニキビや体毛が濃くなるといった男性化現象が現れることがあります。
肥満の人ほどインスリン抵抗性が高い傾向があり、将来的には2型糖尿病へ移行することがあります。そのため、運動や食事によって適正体重の範囲を維持する必要があります。
肥満の場合、体重を5~7%減らすだけでも排卵率が上がるという報告もあります。PCOSによるニキビを改善するためにも運動や食事バランスを見直す必要があります。
高プロラクチン血症
高プロラクチン血症によって排卵障害を引き起こすことがあります。多嚢胞性卵巣症候群の原因をより広い視野で特定するには、インスリン抵抗性の有無を検査すると共に、高プロラクチン血症も調べる必要があります。
PCOSとニキビの発生と治療について
多嚢胞性卵巣症候群によって男性ホルモンが増加することがありますが、それによってニキビや体毛増加などの現象がみられることがあります。
男性ホルモンの影響で、アゴ周辺やUゾーンに繰り返しニキビができたり、腕や太ももの毛が濃くなったりします。また濃いヒゲが生えてくることもあります。
また、多嚢胞性卵巣症候群によってニキビや多毛だけではなく、進行すると子宮体がんにつながる可能性もあります。もしかすると2型糖尿病の前兆である可能性もあります。
そのため、女性の場合で、月経周期が整わない、肌が脂っぽくてニキビができやすい、体毛が濃くなった、などの症状が現れた場合は、多嚢胞性卵巣症候群の可能性があるため、一度婦人科を受診することをおすすめします。
低用量ピルがPCOSによるニキビに効く
妊娠の可能性のない人や妊娠を望まない人の多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の治療には、低用量ピルが効果を発揮します。
ピルはエストロゲンとプロゲステロンの2種類の女性ホルモンの混合薬で、それを服用することで血中の女性ホルモンが安定的にコントロールされます。それによって生理不順が改善します。
また、低用量ピルには男性ホルモンを抑える働きがあるため、ニキビや脂性肌などの改善をもたらします。
そして、多嚢胞性卵巣症候群の女性が生理不順のまま放っておくと、子宮体がんのリスクが高くなることが指摘されています。
ピルは女性ホルモンをコントロールすることで子宮体がんの危険性を格段に抑えてくれますので、妊娠を希望するまでピルを飲み続けておいたほうが良いとされます。
多嚢胞性卵巣症候群によってニキビができやすい人には、マーベロンやファボワール(マーベロンのジェネリック)などの低用量ピルが使用されます。
それらは男性ホルモン様作用が少ない低用量ピルで、男性ホルモンを抑制して脂性肌やニキビを治していきます。にきび治療によく使用されるピルです。
運動や食事改善によって肥満を改善する
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、インスリン抵抗性が増加することで悪化するようになります。そのインスリン抵抗性が高くなる原因が肥満や運動不足です。
PCOSは、肥満とともに症状が進行する傾向があるため、適性体重をオーバーしている人は運動や食事制限によって適正体重に近づけて下さい。
日本人女性の場合は、特に肥満ではなくても多嚢胞性卵巣症候群が現れるケースも多いですが、いずれにしても運動不足がインスリンの働きを悪化させてしまうため、日常的に運動は行って下さい。
メトホルミンの服用
インスリン抵抗性が高い場合、メトホルミンという糖尿病治療薬を使うことで多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の改善効果が期待できます。メトホルミンはインスリンに対する感受性を高めて、結果的に血中インスリン濃度を下げる働きがあります。
インスリン濃度を下げることでスムーズな排卵を促し、多嚢胞性卵巣症候群を改善していきます。インスリンが産生する男性ホルモンを抑制することでニキビ肌荒れといったPCOS特有の症状も改善していきます。毎日服用して2~3か月で効果が実感できるようになります。
排卵誘発剤の使用
妊娠を希望する場合は、多嚢胞性卵巣症候群の治療にクロミフェンという排卵誘発剤がよく使用されます。クロミフェンは性腺刺激ホルモンの分泌を増やすことで排卵を促します。
医師の判断のもとで量を増減しながら治療をします。このクロミフェンの服用で多くの多嚢胞性卵巣症候群の患者さんが排卵を起こすことに成功します。
また、それだけでは効果がない場合は、性腺刺激ホルモン剤の注射が適していることもあります。ただし、その方法は高い確率で排卵誘発を起こすことができる一方で副作用のリスクも高い欠点があります。
まとめ
多嚢胞性卵巣症候群は、お薬で改善できるできる症状であり、同時に症状に伴って発生しやすくなるニキビや脂性肌といった現象も薬でコントロールできます。
多嚢胞性卵巣症候群でニキビができやすい人はピルが効果的ですが、日本ではピルの使用に否定的な認識も多いです。ただし、正しく使用すればとても良いお薬であることには間違いありません。
治療は長い期間におよぶことがありますが、ポジティブに治療を続けましょう。そして、何よりも生理不順にならないようにバランスの良い食事とともに運動や睡眠にも気をつけて規則正しい生活を心がけて下さい。
健康的な生活を送ることはニキビや跡の改善にとってもプラスになるはずです。
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