顔に発生したアトピー性皮膚炎などの湿疹に対して、プロトピック軟膏(一般名:タクロリムス)というお薬が処方されることがあります。
プロトピック軟膏は優れた抗炎症作用によってアトピーの湿疹を治すことができますが、使い続けると副作用としてニキビや毛包炎が発生することがあります。
今回はプロトピック軟膏によるニキビ・毛包炎の原因と対処法をご紹介します。
プロトピック軟膏とは?
プロトピック軟膏(一般名:タクロリムス)とは、免疫抑制作用がある外用薬(塗り薬)です。免疫を抑制することで皮膚の炎症をしずめる効果があります。
プロトピック軟膏はステロイド外用薬と似たように免疫を抑制する効果がありますが、ステロイドで発生しやすい肌のバリア機能低下といった副作用の問題がないメリットがあります。
ステロイド薬との違い
一般にアトピー性皮膚炎の治療はステロイド外用薬が使用されますが、主に顔に発生したアトピー性皮膚炎の治療に対してはプロトピック軟膏が使用される事が多いです。
その理由は、顔は皮膚が薄くて薬剤の吸収が良く、ステロイド薬の副作用が現れやすいためです。ステロイド外用薬の濃度が高いものを長く使い続けるほど皮膚が薄くなる、血管がもろくなるなどの様々な副作用が現れやすくなります。
ステロイドは表皮内細胞や真皮層の線維芽細胞の働きを抑制するため、健康な皮膚の働きまで阻害されてしまうのです。
一方、プロトピック軟膏は、単に免疫を抑制して炎症を治す効果のみであるため、ステロイドで起こりがちな副作用の心配が抑えられています。
ステロイドの副作用を心配する人は、顔以外の部分にもステロイドの代わりにプロトピック軟膏を使用することもよくあります。
プロトピック軟膏の消炎効果のレベル
プロトピック軟膏の消炎効果は、ステロイドと比較すると、5段階あるうちの3番目(強レベル)くらいの効果があります。弱い効果ではなく、一方で劇的に強い効果でもありません。
欠点は刺激性が高いこと
プロトピック軟膏の欠点は、使用開始時に刺激感があり、赤み、ほてり、ひりひり感、かゆみなどが現れやすいことです。
60~70%の人に現れるといいますが、基本的に湿疹の症状が強いほどプロトピック軟膏の刺激感が強く現れます。また、皮膚が薄い人もそういった副作用が現れやすいです。
ただし、そういった刺激感は一時的によく発生する現象であり、使い続けることで湿疹が抑えられてバリア機能が整ってくれば、刺激感も無くなっていきます。
反応がひどい場合は使用中止したり、皮膚科を受診して医師に相談したりしましょう。
副作用でニキビを引き起こす?
ステロイドと比較するとプロトピック軟膏の副作用は少ないのですが、部分的にステロイドと同じような副作用が発生することがあります。
その副作用の一つがニキビです。ステロイドと同じように免疫を抑制する効果があるのでにきびができてしまうのです。プロトピック軟膏によるニキビは以下のように進行します。
1プロトピック軟膏の免疫抑制効果により、皮膚に生息するアクネ菌やブドウ球菌、マラセチア菌などの皮膚常在菌が増加する。
2皮膚常在菌が皮脂中の中性脂肪を分解して遊離脂肪酸を産生する。
3遊離脂肪酸には刺激性があり、毛穴周辺の皮膚を刺激して毛穴が塞がりやすくなる。
4毛穴が完全に塞がってアクネ菌やマラセチア菌が増加することでニキビが発生する。
プロトピック軟膏によるニキビは、比較的に皮脂が多い人に発生しやすいです。
プロトピック軟膏によるニキビは治りやすい?
プロトピック軟膏によるニキビは基本的に大きく炎症して腫れるものではなく、小さいブツブツとしたニキビであることがほとんどです。
使用を中止すれば症状も改善していきます。ところが、プロトピックを使い続けたり、条件がそろえば腫れが大きくなってしまうことがあります。
ニキビの炎症が大きくなった場合は抗生物質などの使用が適していることがあります。もし、プロトピック軟膏を使用して皮膚に異常が現れた場合は、病院で皮膚科医に診断してもらいましょう。
ニキビではなく毛包炎であることも
プロトピック軟膏による副作用でブツブツしたニキビが発生した場合、それはニキビではなく毛包炎(毛嚢炎:もうのうえん)という症状である可能性があります。
毛包炎は毛包内で細菌感染を起こすことで炎症を起こす症状で、見た目はニキビと非常に似ています。
毛包炎は、カミソリや毛抜きなどで毛包が傷つき、そこからブドウ球菌などによる細菌感染を起こすことで発生することが多いですが、プロトピックやステロイドなどの使用で皮膚の免疫が下がって細菌感染を起こすことでも発生します。
この毛包炎はプロトピックの使用を中止すればすぐ治りますが、腫れが進行して化膿してしまうこともあります。その場合は抗生物質が必要になることがあります。医師に診てもらって下さい。
マラセチア毛包炎の可能性もある
プロトピック軟膏の免疫抑制作用によって皮膚常在菌であるマラセチア菌そのものが増加し、マラセチア毛包炎というニキビと似た症状を起こすこともあります。
治療法はマラセチア菌は真菌(カビ)であるため抗真菌薬が有効ですが、細菌が原因であるニキビや毛包炎との判別が難しいこともあります。
細菌とカビは性質が違うため治療法も異なります。プロトピック軟膏の使用を中止すれば軽快に向かいますが、症状が悪化した場合は皮膚科を受診して下さい。
他の感染症を起こすこともある
ニキビや毛包炎の他にも、プロトピック軟膏の免疫抑制作用によって様々な皮膚感染症をまねくこともあります。
黄色ブドウ球菌が原因の伝染性膿痂疹(とびひ)、ヘルペスウイルス感染による単純疱疹やカポジ水痘様発疹症などもプロトピック軟膏によって発生の可能性があります。
それらの皮膚病はプロトピック軟膏を長く使用した場合に多く、全体的には発生確率は低いです。ところが、もし小さなブツブツとは違う症状が現れたら、病院を受診して医師に診てもらって下さい。
原因が細菌の場合は抗生物質、原因がウイルスの場合は抗ウイルス薬が使用されます。
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